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味の○○○○○○(22.05.02)


 不忍ブックストリートの一箱古本市つつがなく終了。来場者・参加者・運営の皆様おつかれさまでした+ありがとうございました。楽しうございました。ギリギリになって「これも箱に入るから入れとこう」と追加した文庫が「これを何年も探していた」と仰るかたに引き取られたのが嬉しかったことなど。本も御縁(吉野朔実)ですね。

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 上野での一箱古本市が終わった後、その足で千葉の実家へ。両親と兄一家に合流。のんびり一日を過ごして来ました。
 横浜の自分の住まいではテレビのない生活をしているので、年末年始以来、情報バラエティを中心に色々と鑑賞(ちなみにチャンネル権は、ない)。おおむね面白かったのだけど、ツッコミどころも幾らかあって―

 飲食店やホテル食堂で供する料理の下ごしらえ・仕込みを専門に受託する会社の事例を紹介している。負担が軽減できるだけでなく、チェーン店では「味を揃える」=店舗ごとで味つけにブレが生じるのを防げるメリットもあるという。
 各地で人気の「ご当地コロッケ」も、その多くを近畿の会社が引き受けているらしい。全国から搬入された名産品を、大型機械でマッシュされたじゃがいもなどと合わせ、後は揚げるだけの段階まで仕上げて各地に送り返す。こんな素材はコロッケになるだろうかと相談を受け、商品開発まで手掛けている由。
 どちらも素直に興味深い。全国各地の名物コロッケが別のところで作られていても、個人的には憤慨する話でもない。ただ、これらの企業のことをお助け工場と呼んでいる。ご丁寧にビートルズの「ヘルプ!」(バナナラマがカヴァーしたヴァージョン)が要所要所でバックに流れる。
 …「外注ではダメなのか
 面白いくらい番組は「外注」という言葉を使わず、お助け、お助けで押し通すのだった。

 他の番組。ユニークな目的に特化した特殊車輌を紹介している。これも面白い。だけど「こういう特殊車輌がある」「すごいですねー」と紹介しても良かろうものを「この車はこうすごい」と担当の芸能人がプレゼンテーションして「すごいかどうか」をパネリストが判定する。どちらかというとパネリストの強引な語り口などを、おもしろ可笑しく茶化して盛り上がる。
 別の番組では、アイディア商品やサービスを紹介するのだが「正解」を提示する前に、どんな工夫をしているか出演者でブレインストーミングしましょうと来る。番組の最後には「こんなアイディアがあるんですねえ」ではなく「ブレインストーミングで様々なアイディアが出るんです」で終わる。
 なんだか、世に言う「中抜き」とは真逆だけど、実は本質的に同じことをしてないか?という気分になってしまった。「外注」で済むものを「お助けなんとか」と新しい名称を付与したり、プレゼンしたりブレストしたり。本来の素材に、番組独自の妙な付加価値をつけようとして、それが浮いている。昔から海外情報などをクイズ形式で紹介する番組はあったけど、新しい工夫がこなれてないというか。目先を変えないと新しみがないのも分かるけど、余計なことをして素材の面白さを減じてないかなど。
 いつだか観た人気番組は、お笑い芸人7人くらいがレギュラーでゲストを迎えトークするものだったが、一流のスポーツ選手などを迎えながら、その本業とは無関係なリアクションの可笑しさを延々いじったり、果ては芸人同士が互いをいじって笑わせる内容だった。そういう部分、内輪のいじりあい・ちちくりあいをこそ楽しいと思うよう視聴者を馴致して人気番組になってるのだとしたら、あまり楽しい光景ではないなと思ってしまう自分は、やはり早めにテレビ視聴をやめて正解だったのだろう。
 社会批判や政治家の悪口と違って、コンテンツに対する批判的な評価って、ハシクレでも自分も創作をしてると全部自身に跳ね返ってくるので、正直ニガテかも…
 
 日曜・お昼時の旅番組は素直に楽しかった。鎌倉の名所をそぞろ歩きしながら、ゲストの俳優ふたりの家庭の話や尊敬する役者の話などの四方山を、トーク上手なホスト役のタレントが盛り上げる。番組のなかにミニコーナーがあって、他のタレントが別に撮ったグルメ紹介を流す。若手の芸人らしいレポーターの、いわゆる「食レポ」が巧みで、コーヒーひとくち飲んでも酸味と苦味のバランスがこう、それが時間差で来てどう、比喩もふんだんに盛り込んで逸らさない。別のコーヒーを飲んで、よほど上手いことを言ったのだろう、フルーティな酸味とコーヒーらしい苦味が交互に来て味の○○○○○○と評した、○○○○○○が伏せられて、正解を明かす前にゲストが当てましょうという御愛嬌。
 俳優のひとりが(正反対な二つの味が交互に来るということで)オセロ?と言うも不正解で、出た正解は味のケミストリー。テロップでは「ケミストリー(化学反応)」と説明がついて、
「案外ふつうだったね…先に音楽の比喩を使ってたから"味のフーガ"くらい言うかと思った」
とつぶやいたら、一緒に見ていた家族が
ケミストリーって、グループのほうなんじゃない?低音と高音が交互に唄う
あーそうかも知れない。だとしたら(化学反応)なんてテロップじゃなくて二人の歌い手の画像を出してあげればよかったのに、比喩が凝りすぎてスタッフにまで伝わらなかったのかも。渾身のネタを拾ってもらえなかった食レポ芸人の名誉のために、ここに記しておく次第です。

(c)舞村そうじ/RIMLAND ←2206  2204→  記事一覧(+検索)  ホーム